“ことのは”の森 / Column

夢見草

桜の季節、都心では、新入社員や新入生らしき若者が連れ立って歩く姿を見かけるようになり、街が少し賑やかになりました。マスク姿でも、夢と希望が感じられる雑踏に少しテンションが上がります。
 子どもの頃、『将来の夢は?』と聞かれたら、「サッカー選手」「野球選手」「医者」・・・というのが定番でしたが、最近の小学生の“なりたい職業”のランキングには、「ITエンジニア・プログラマー」「ゲームクリエイター」が上位に並ぶほか、昔は考えられなかった「You Tuber(ユーチューバー)」もランクインしています。一方、親が子どもに“なってほしい職業”には「会社員」「公務員」「医師」「弁護士」「教師」といった、堅い職業が並び、“なってほしくない職業”は「YouTuber」が断トツのようです。
 こうしたランキングはいろいろありますが、対象が高校生になると、「会社経営者・起業家」になりたいという夢も上位に見かけるようになります。そして、いよいよ就職活動を控えた大学生の人気企業ランキングには、NTTデータやソニーグループといった超大企業が並びます。こうなると、『経営者・起業家』になりたいという夢は、厳しい現実を前に、一旦、影をひそめるのでしょう。
 一方で、世の中には、『社長になるか、ならないか』という二者択一を迫られている人たちもいます。“社長の息子”として家業を引き継ぐかどうかと悩む人、いわゆる“2世経営者”です。最近では、事業をそのまま引き継ぐのではなく、ノウハウや信用を活かしながら、後継者が家業のイノベーションを図り、跡を継ぐことを“ベンチャー型事業承継”や“アトツギベンチャー”と言うようにもなりました。
 『経営者になりたい』、『経営者になった』、『経営者にならざるをえなかった』など、起業家でも、アトツギでも、経営者になるまでの事情や想いは人それぞれです。ただ、いずれにしても、“経営者”という仕事は、けっして楽なものでも、カッコイイものでもありません。今、日本には“社長”を名乗る人が400万人以上いるはずですが、同時に、日本に今一番足りないのは『経営者』でもあります。
 『子どもには堅い仕事に就いてもらいたい。YouTuberはやめておいてほしい』と思う、親の気持ちもわからなくはないですが、子どもや若者がなりたい職業や子どもになってほしい職業に『経営者・起業家』が定着する日が来れば、日本はもっと変わることでしょう。そのためには、『経営者』という仕事の苦楽をもっと多くの人と共有できる機会を創ることも必要です。

桜の別名は“夢見草”。『経営者になりたい』と夢見る人がいるならば、儚く散らせることなく、覚悟、決心、努力、実現・・・するための場と機会をたくさん創り出したい。そんな夢を見ています。

・・・ 敬具
(梟)

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